THESPA TIMES Vol.09 沖田優監督「ザスパが掲げる理想は夢物語じゃない。2026/27シーズンこそ勝負」

昨季、ザスパ群馬の指揮官に就任し、技術力を大切にしながら攻撃的で観る者を魅了するサッカーを表現してきたのが沖田優監督だ。シーズン移行に伴う半年間の特別大会「明治安田J2・J3百年構想リーグ」でも、その姿勢を貫いた。地域リーグラウンドではEAST-Aで6位に入りプレーオフラウンドでは連敗するも、収穫は確かにあった。その歩みを振り返ってもらうともに、勝負の2026/27シーズンへの想いにも迫った。
J2・J3全40チームが地域ごとに4つのグループに分かれて戦った百年構想リーグ。EAST-Aに入ったザスパは、J2の湘南ベルマーレ、横浜FCに勝利するなど10チーム中6位で、順位ごとに対戦するプレーオフラウンドではFC岐阜、ツエーゲン金沢に敗れるなど悔しさが残ったが、半年の特別大会で得られたものも大きかった。沖田優監督もそう振り返る。
「本当に良いリーグでしたし、途切れることなく、(プレーオフラウンドを含めた)20試合を一気に走り抜けた印象です。緊張感が途切れることなく、刺激的で、ありがたい良い日々だったと思います。グループ分けされたときにも話しましたが、実際に戦ってみても本当に良いグループで、Jリーグがこの百年構想リーグを企画し開催してくれたことは改めて凄いことだと実感しました。世界的に類を見ないリーグで、昇降格がないなか、凄く力のあるチームとの試合で、多くのチャレンジをすることができました。成長、成果の感じ取れる18試合プラス2試合でした。
実際には、半年を3つのスパンに分けて臨みました。序盤戦は去年から取り組んだことを丸々ぶつけるスパン、その次は去年やってきたものにバリエーションを加え、さらなる進化を目指したスパン、そして自分たちが積み上げてきたものを大切にしつつ、引き出しを増やすために異なった戦い方を取り入れたスパンと、それぞれに良い取り組みができました。現にアウェイの(ヴァンラーレ)八戸戦などは目線を変え、粘り強く勝利することもできました。
そうやってフェーズを分けることは、もともとイメージはしていました。でも、到達具合や次に移れるタイミングなどを見極めながら、例えば必ず6試合ずつで区切ったわけではなく、なんでもかんでもやれるわけではないので、大枠で3つのフェーズをと考えていました。だからこそ、戦い方、攻守のバリエーション、引き出しを増やし続けられた20試合でしたし、(就任した昨年)1年もそうですし、この半年の百年構想リーグでも、長期、中期、短期の目標を掲げたなか、自分にとっても選手にとっても、クラブの未来に向かっていく面でも、非常に良い時間になったことは間違いありません。
また、地域ごとのグループ分けで、アウェイへの移動時間は短く、キックオフ時間もほぼ14時ということが早くに発表されていたので、計画的に練習試合を、しかもJ1やJ2のチームと組むことができました。普段のリーグ戦ではアウェイへの行き帰りや時間のズレなど制約が多かったですが、今回のレギュレーションの恩恵を非常に得られました。それこそ百年構想リーグを戦って、翌日に練習試合をする日々を繰り返すことができ、土台作り、基礎作りを加速させられました」
その言葉どおり、チームとして確実に前進することはできた。技術を意識し、攻撃的に振る舞うサッカーも健在だ。もっとも数字面を見れば、7勝11敗(PK勝ち1/PK負け3)、得失点はマイナス10(得点数26/失点数36)で、プレーオフは岐阜に0-1、金沢に1-4の敗戦。失点数はJ2・J3の全40クラブでワースト2位であった(ワースト1位は福島ユナイテッドFC)。
「心配してくださる方もいらっしゃると思います」と指揮官も口にする。J2復帰に向けて結果へのプレッシャーも日に日に高まっているという。それでも昨季同様、信じる道を変えないのが今のザスパであり、沖田監督のチームなのである。

「自分の力不足で、この1年半、最高の結果を出すことはできませんでした。ただ、クラブが目指すビジョン、攻撃のマインド持ったチームとして、Jリーグ60チームのなかで、“ザスパ群馬と言ったらこういうクラブ”という方向性を着実に、計画的に表現でき、次のシーズンへ進むことはできています。そのためのさまざまなトライのなかで、心配されている方はいらっしゃるはずですし、長くクラブを応援してくださっている方の中には『そんなにカラーを変えて大丈夫か?』といった不安が生まれているかもしれません。
でも5年後、10年後、振り返ったときにザスパ群馬は良い歩みをしてきたと評してもらえるような、『あのときの数年こそが変革のために必要だった』『あのときがあってこそ、より誇れるクラブになった』と、皆さんに思ってもらえるようにやっていきたいです。その意味では社長、GM、強化部、クラブフロント、パートナーの方々を含め、ビジョンをしっかりと掲げて挑戦するこのクラブは本当に凄いと思うんです。
理想を掲げ、挑戦することって簡単ではありません。どうしても結果が問われますし、ビジョンを持ち、実行するなかで、最終的には結果にリンクさせなくてはいけないですから。でも、自分たちはその挑戦を達成できる、類まれなクラブになる道を着実に進んでいます。そしてこれからさらにザスパ群馬を愛してくださる方々みんなで想いを共有して歩んでいけたらと考えています。
それこそアカデミーの子たちとつながっていくことも大切です。クラブとして明確なビジョンを持ち、体現することで、アカデミーの子たちも今のザスパのサッカーが好きになり、誇れるからこそ、ユースに上がりたい、トップに上がりたいという気持ちが強く生まれるはずです。
スタジアムに行けば、トップチームが誇れるサッカーでJ1の強豪と対峙している――。そんな光景を目にすれば、より熱は高まります。チームカラーが確立されてこそ、本当の意味で類まれなクラブに近づいたと言えるはずです。
だからこそ、自分がこのクラブに関われる間は、その道をしっかりと進んでいきたいですし、この1年半で土台、基礎は強いものを創れました。それは自信を持って言えます。今後はいかに、その基盤の上に大きなものを積み上げていけるか。土台を活かし、着実に計画的に進んでいきたいです」
勝負事だからこそ負けるときもある。敗戦が続けば、自信を失いかけることだってある。それでも百年構想リーグでは、感動的なシーンにも出会えた。
「アカデミーのジュニアの子たちやその親御さんたちと試合後に会う機会があったんです。そこで『今のトップチームの選手たちがやっているプレーは見ていて楽しいですし、ここでこの子たちをプレーさせたいって思っています。お陰さまでジュニアユースにも上がることができました』というような言葉をかけてもらえたんです。しかも負けた試合のあとで。それはうれしかったですね……。これこそ自分たちが目指していく未来だなと。同時に責任感がより増し、自分はこの子たちを少しでも早く“J2やJ1のザスパのジュニアユースの選手”にしなくちゃいけないと気持ちを新たにしました。そのために『一緒に頑張りましょう』と話させていただきました。
まだまだ力不足な面はありますが、観てくださる方々に、自分たちのスタイル、やろうとしていることは、少しずつ伝わっているんだなと確認できた瞬間でもあったんです。と同時に、先ほども話したとおり、より早く結果を出さなきゃいけないと、さらに責任感が強まった出来事でもありました」
理想と現実。どのクラブもその間で揺れ動くものだ。理想ばかりを掲げ、結果を蔑ろにすれば本末転倒で、逆に結果を急ぐあまり大事な志を欠いてしまえば長続きはしない。バランスはかなり難しいが、今のザスパはクラブ一体となって勇気を持って挑戦している。

「自分たちはこの1年半、少し遠回りをしたかもしれません。でも、長い目で見たら、逆に理想に辿り着くための近道であり、それを多くの人に理解してもらうためには、やはり早く結果も出さなくちゃいけません。
繰り返しになりますが、ビジョンが曖昧なまま、長期、中期、短期の目標ではなく、短期だけの成績と数字を追い求めていたら、自分たちの色、戦い方が分からなくなってしまう。そうするとアカデミーの子たちもクラブに誇りを持てないはずですし、J2、J1に上がっても、エレベータークラブになってしまいます。
また、百年構想リーグでは、J2のチームとの対戦でも、ある程度、やれるという感触を得られ、なんとかJ3に適応しJ2復帰を成し遂げられた先には、そこまで苦労する未来はないのかなという感覚も手にできました。僕もコーチとして他のクラブでいろいろな経験をさせてもらい、J1、J2、J3はそれぞれまるっきり異なる特長を持つリーグだと理解しています。J1で長く戦い続ける未来を目指すのであれば、短いスパンや目の前の結果、なんでもいいから勝つだけの試合を繰り返していたら、逆に目標に近づけないですし、遠回りになってしまいます。
ただ、そうは言っても1年でJ2復帰を達成するとの野心を持っておきながら、簡単ではなく、自分の力不足を痛感しています。皆さんに心配をおかけしてしまっているのが事実です。それでも自分たちだけでやれることは限られており、どうかクラブのビジョンを信頼してもらい、選手らを支えていただけるとありがたいです。もちろん1試合1試合の結果を蔑ろにするつもりは全くなく、どのゲームも本気で勝ちにいきます。時間がかかっていますが、来季、2026/ 27シーズンは本当に多くのものが問われる1年になると、今は緊張感でいっぱいです」
その運命のシーズンへ、指揮官として勝負強さを手にすることや、失点減へ取り組む覚悟も示す。
「(先日の岐阜、金沢との)プレーオフラウンドではJ3仕様の戦い方、勝ち方をよりうまく表現しなくてはいけないと感じました。自分たちのスタイルがあるなかで、意図的にゲームを運べるようにならなくちゃいけません。一方であの2試合を経験できて良かった。あの悔しさをキャンプにつなげたいですし、ああいう試合に勝つためには、日々の基準をより上げなくてはいけないと選手も理解しているはずです。だからこそ意識高く、今の土台に肉付けをできるようプレシーズンから取り組みたいです。
(失点数の部分は)まさに心配をおかけしていると思いますし、失点を減らす作業はJ2に戻るためにマストで、準備しています。個人レベルの強度、守備力は少しずつ強化してきましたが、ゲーム運びもそうですし、組織として戦術的な守り方や、バリエーションもさらに追加していきたいです。手順は自分のなかにあるので、うまく表現していきたいです。
ただ、ここも先ほどの遠回り、近道の話で言えば、とにかく失点しないことだけにフォーカスし、上のカテゴリーに行ってから攻撃を準備しようとしても難しい。でも今のザスパは攻撃の再現性をチームで表現できるようになっており、ここからいかに失点数を減らし、勝点を重ねていけるかというフェーズに入っています。だからこそ改めて2026/27シーズンが勝負だと考えています」
百年構想リーグでのホームの平均観客数は3,424人。魅力的なサッカーを続け、結果もついてくれば、自ずとスタジアムの光景も変わるはずだ。
「遠回りではなく、今のやり方がある意味、近道だと信じていて、いつの日かJ1に行き、多くの注目を浴びるようになれば、クラブの最高観客数を更新する日もくるに違いありません。そのためにも今は自分たちにやれることに集中したいです。
改めてアカデミーの子たちがザスパでプレーすることに誇りを持ち、そうした選手たちがいつか大人になり、友だち、家族を連れてスタジアムにまた来てくれる。そうやって歴史を積んでいくのが究極の目指す形だと思います。長い目で見れば2世代、3世代と応援してくれる人が続いていく。それはJリーグ自体が目指している理想でもあります。
自分はどれぐらいのスパン、このクラブにいられるか分かりませんが、少なくとも1年半関わらせていただいて、今話した理想は夢物語じゃないと感じています。このクラブであれば、きっと達成できる。それほど今のザスパは可能性を秘めています。
自分たち監督、選手だけじゃ到達できるものではないですが、クラブハウスがあるGCCザスパークが完成し、社長、GM、強化部、クラブフロントの方々、そしてパートナーの方々、ファン・サポーターの方々、皆さんが描いているものが一致しており、強いビジョンを感じます。現場だけが勝手に夢を語っているわけじゃないですから。
だから、いつの日か、今のザスパの歩みが、モデルケースになる日も来るかもしれません。目指しているのは夢物語ではない。そこに共感させてもらい、僕も指揮させてもらっているので、本当にありがたく、幸せですね」
貴重なストーリーは勝負の新シーズンへ続いていく。
文:本田健介
カテゴリ:INTERVIEW




