THESPA TIMES Vol.13 依田光正監督「当たり前のことを当たり前に。ザスパに恩返しを」

J2復帰を目指す新シーズン、苦戦が続いたザスパは9月14日、1年半指揮を執った沖田優監督との契約を解除し、コーチを務めていた依田光正に指揮を託す決断を下した。かつてザスパで引退し、指導者生活もスタートさせ、今年、11年ぶりに群馬の地に戻って来た男に白羽の矢を立てた形だ。新体制発足時点での順位はJ3最下位。だが、誰もが現状を打破しようと努力を続けている。沖田監督の下で灯してきたザスパの火は決して消えていないのだ。果たして依田新監督はそのチームをどう導こうとしているのか。
――まず率直に監督就任の話を受けた際の気持ちを聞かせてください。
「沖田(優)監督が解任になってしまったのは、監督だけの責任ではなく、僕らの責任でもあります。だから、申し訳ないという気持ちが一番にきました」
――就任にあたってはクラブからどんな説明があったのでしょうか?
「ここまでのチームのことを知っている人にお願いをしたいということで話をもらいました。ただ、今話したように、現状の順位は自分たち全員の責任でもあります。だからこそ、やらせてもらえるならこの状況をなんとか打開したいという想いもありました」
――依田監督はザスパで引退し、その後はアカデミーの指導にあたり、他クラブでの貴重な経験を経て今年、11年ぶりにザスパに復帰しました。クラブへの想いも人一倍だと思います。
「百年構想リーグからザスパに戻って来ましたが、一度離れた時から、機会があれば帰ってきたいと考えていました。自分の力を必要とされる時があれば、恩返しをしたいと。このクラブ、この街、この地域の人々のために働きたいと思っていました。それは僕にとってザスパが最も長く所属したクラブで、引退をし、指導者としての道もスタートさせてもらった場所だからです。だからこそ恩返しをしたいという想いは強く持っています」
――改めて沖田監督とは何か話はされたのでしょうか。
「今回のことが決まったあとに連絡をもらい、話をしました。一緒にこれまでやってきたこと、沖田監督の想い、そして今後に期待しているという言葉など、深くいろいろな話をさせてもらいました」
――チームはここから再始動となります。選手たちにはどんな話をされたのでしょうか。
「先ほど話したことと同じですね。監督が交代するのは、監督だけの責任ではなく、ここに関わる全員に責任がある。だから沖田監督の想いも感じなくてはいけないというようなことを伝えました。そして現状を打開するには相当なパワー、覚悟が必要で、変わることを恐れずにチャレンジしていこうという話をしました」
――選手たちの反応はどうだったのでしょうか?
「監督が交代したからそういうふうになったというより、選手たちはなかなか結果を残せなかった現状に対し、常に“どうにかしなきゃいけない”“このままじゃいけない”という想いを示してくれていました。だから監督が僕になったから一気に目の色が変わったのではなく、沖田監督の下でも一緒になんとか上がっていこうというスタンスで、準備し続けていました。だから、強い危機感を持っている点では変わっていないと感じています」

――そのなかで試合まで時間はありません。特に重点を置きたいことは何でしょうか。
「今話したように選手は“現状をどうにかしたい”との想いを持ち、勝利へ常に全力で臨んでいますが、そういう気持ちを表現できるようなバランスと言いますか、メンタリティにさせてあげたいという想いはあります。やはり勝ちから遠ざかってしまうと、少し縮こまってしまったり、思い切ったチャレンジができないことがあります。そういう面では『ポジティブにトライしよう』『チャレンジしていこう』『ミスを恐れないでいこう』など前向きな言葉をかけ、前向きにプレーできるようなアプローチをしています」
――メンタル面へのアプローチですか?
「そうですね。(胸を指しながら)ここが一番大事だと思うんです。心があって、身体があって、頭がある。まずはメンタル面でしっかりと自信を持ってやってもらうための準備をしたいです。そしてやることを整理しながら、選手たちが力を発揮できるような状態につなげられればと考えています」
――沖田監督の下では“魅せる”ことを意識し、今季は守備面の強化も図りながらベースには“超・攻撃サッカー”と言えるようなスタイルがありました。その1年半の強化を踏まえ、依田監督はどのような戦い方を示す考えでしょうか? 失点の削減も急務に感じます。
「沖田監督が目指してきたサッカーを継承するのが基本です。そのうえで、攻守のバランスを少し整えようかなとは思っています。ただ、選手に何より強調したのは、ゴールに向かっていく姿勢です。ゴールに向かわないと点が入りませんし、見ている人もゴールを見たいはずで、勝つためにはゴールが必要です。だからこそ『前へ、ゴールへ向かい続ける』という言葉をひとつのキーワードにしています」
――依田監督は2023年にJ3の福島ユナイテッドFCで、シーズン途中に服部年宏監督の後を受けて指揮官を務めました。あの時の経験は活かせそうでしょうか?
「同じ途中就任であり、初めての監督としての仕事でしたが、経験としては活きています。ただメンバーも異なり、サッカーのやり方も違うので、経験にはなっていますが、全く同じではありません」
――当時は監督としてのやりがい、難しさなどを実感した形でしょうか。
「僕は幸運なことにいろいろな監督と仕事をさせてもらい、こういうシチュエーションではこういう考え方をしているんだ、こういう行動をするんだ、とさまざまなことを学べました。そのなかで、福島での初の監督としての仕事では、順序立てて進めていく部分などは学んだことをもとにさまざまな想像はしていましたが、いざやってみると、イメージ通りのこともありましたし、それ以上のこともありました。そういう経験を1回通っているのは、今に活きてくるのかなとは思います」
――想像以上のこととは具体的にはどんなことだったのでしょうか?
「やっぱり人と人がやる競技であり、仕事でもあります。だから同じような状況はなく、その都度変わるわけで、関わる人たちをつなげていく、力を発揮してもらう部分は、上手くやっていく必要があると感じました」
――では、監督として一番大事にすべことは何でしょうか?
「信念と言いますか、自分が大事にしているポイントはこれだと、はっきりと周囲に伝達することだと思います。ただ、それに固執しすぎることなく、柔軟にやることも同じくらい大切です。やはり、人と人がやる競技ですし、メンタルやコンディションによって調子が上がったり下がったりします。だからいつも理想通りにはいかない。状況を判断して柔軟にやるべきだと思います」
――先ほど話された“信念”を言語化していただくなら、どういうものでしょうか。
「“当たり前のことを当たり前に”。それですね。結局、サッカーは点を取るか、取られるかというところで、何が勝負になるかと言ったら、本当に些細なことと言いますか、小さなこと、細かいことの積み重ねです。誰かがサボったら穴が開くし、誰かが頑張ったらプラスになる。例えば走りのメニューをしていても、この線で折り返そうと言っているところで、コンディションなどによって少し前でターンをしてしまうことがあるかもしれない。でもその1メートルが20本やれば20メートルになり、その積み重ねだと思うんです。沖田監督の下でも細部にはこだわってきましたし、より磨いていかなくてはいけないと考えています。だから、当たり前のことを当たり前に、全員がやる。そこが自分の中でのポイントです。それは自分の実体験から培ってきた考え方でもありますし、先ほど話したようにいろいろな監督と一緒に仕事をさせてもらい、皆さんの良いとこ取りをしている部分でもあります」

――依田監督は帝京高校の出身で、モンテディオ山形、ザスパでプレーし、現役引退後はアカデミーのコーチや監督も務め、当時のザスパでは副島博志監督、秋葉忠宏監督、服部浩紀監督、FC町田ゼルビアでは相馬直樹監督、水戸ホーリーホックでは秋葉忠宏監督、ガンバ大阪では宮本恒靖監督、松波正信監督、福島では服部年宏監督、清水エスパルスでは再び秋葉忠宏監督、そして戻ってきたザスパでは沖田優監督の下でコーチを務めてきました。
「あるやり方に特化した方もいれば、柔軟に物事を進める方もいて、すごく勉強になりました。本当に多くの考え方、やり方を見てきたからこそ、自分の構成する要素は多岐に渡るんです。このポイントだったらあの監督の考え方が見本になるなど、アカデミーのコーチ時代を含め、関わらせてもらった指導者の方々の良い部分を自分の色に取り込んでいければと考えています」
――“当たり前のことを当たり前に”そして“前へ、ゴールへ向かい続ける姿勢”“攻守のバランス”というフレーズが先ほど出ましたが、理想とするサッカーや、見本にしているチームなどはあるのでしょうか。
「サッカーのトレンドはその都度変わります。だから、その時代によって見るチームは異なりますし、そこも良いとこ取りという面があります。いろいろなモノを吸収しながら融合させるイメージでしょうか。良いと思ったものは映像で残したり、頭のなかを整理したりしています」
――その意味では“状況に合わせて柔軟に”ということも大事になってきそうです。
「そうですね。芯を持ちながらも柔軟にというところは、今までの経験を含めてつながっていくと思います。 やはり先ほども話した通り、J1、J2、J3のクラブやアカデミーなどで経験を積ませてもらい、選手と向き合う姿勢は変わりませんが、さまざまな立場で指導をさせてもらったからこそ、柔軟に振舞う大切さも学んできました。その時の状況や、選手によっても声の掛け方が変わります。だから、その都度、必要なこと、大切なことを意識していきたいです」
――ここから巻き返すための青写真はいかがでしょうか。
「勝点を手にするには粘り強さが絶対に必要です。ただ、それは守備的に、ただ守るという話ではなく、ゲームを粘り強く進めるということ。身体を張る部分もそうですが、上手くいかなくてもトライし続けることが大切です。勝利に必要なことをやり続ける。そこですね」
――ファン・サポーターの方へのメッセージは何かありますか?
「歯痒い思いをさせてしまっている現状は本当に申し訳ないです。ただ、クラブに関わる全員が『現状のままではいけない』『どうにかしなきゃいけない』と心から思っています。僕が監督になって最初のチームミーティングでも話しましたが、このクラブの成り立ちは特殊な面があり、いろいろな壁をみんなで乗り越えてきたからこそ今があります。だからこそ、この順位でも、先日のアウェイゲームでも、ホームゲームでも、あれだけの人たちが声を届けてくれます。それは物凄くありがたいです。そうやって応援してくれる人たちのためにも全力でやる。必死でやる。粘り強くやる。当たり前のことを当たり前にやる。そうやって勝ちにつなげていきたいです」
――やはり依田監督もザスパへの愛情が強いですね。
「改めてどんな形であれ、このクラブの力になれたらと思っています。想像していないタイミングで監督をやらせていただくことになりましたが、感慨深さというより、今は現状をなんとかしなきゃいけないという想いでいっぱいです。百年構想リーグでザスパに戻ってきた時に、本当に多くの方に声を掛けてもらい、非常にありがたかったですし、今回もいろいろな方に声をかけてもらえたのは、凄く励みになっています」
――最後に改めて、意気込みをお聞かせいただけますか。
「目標はもちろんあります。チームミーティングでも話しましたが、J2復帰を諦めていません。ただ、それは最終的に辿り着きたい場所であり、まずは目の前の1試合があり、それを一つひとつきちんとやっていくことで、目標に到達できる。だからまずは目の前の1試合。そのための1日1日のトレーニング、一つひとつのプレーが何より大切になります。そこを意識してやっていこうと選手たちに話しており、そうやってひとつになって前に進んでいきたいです」
取材・文:本田健介
カテゴリ:INTERVIEW




