THESPA TIMES Vol.05 細貝萌 代表取締役社長兼GMインタビュー
「今やれることを全力で」

変革のときを迎えたクラブで、新たなリーダーとなったのが、地元出身で2024年にザスパ群馬で引退を決断した細貝萌であった。任されたのは代表取締役社長兼GMという大役である。ピッチで戦い続けた現役時代とは異なる分野。しかも1年でのJ2復帰を目指したチームはまさかの苦戦を強いられた。大きな波の連続であった2025年、細貝社長はどうクラブと向き合い、導こうとしてきたのか。
「最終的には6連勝という形でシーズンを終えましたが、トータル的に14位。当然満足のいくシーズンではなかったです。もちろんベースを作りながら、新たなものにチャレンジしていろいろなことをガラっと変えてきたうえでの成績です。そのなかで、連敗が重なったときなどは『監督は変えるべきか?』などと、立場上、僕のところにも周囲からの声が寄せられましたが、貫いたからこそ、最後の6連勝につながった。だからシーズンをとおして、課題と収穫がたくさん見つかった1年になったと感じています」
地元クラブであるザスパで、2024シーズン限りでスパイクを脱ぎ、その年の11月には社長代行兼GMへの就任が内定。そして年が明けた今年4月には正式に代表取締役社長に就任した。その前後では、昨年5月に新クラブハウス『GCCザスパーク』が完成し、今年5月にはベイシアグループが過半数の株式を取得し、クラブ運営に参画することも決定。そして11月には2026年1月31日付で、細貝社長がこの1年さまざまなことを学んできた赤堀洋代表取締役会長の退任もリリースされた。
しかも24年にJ3降格を喫したチームは、指揮初挑戦の沖田優監督を抜擢し、“超攻撃サッカー”を目指す壮大なチャレンジに打って出たばかりだった。
まさに大規模な変革。その渦中にいたクラブにおいて、運命に導かれるように新たなリーダーとして先頭に立ったのが細貝社長である。未経験の新たな分野であるからこそ、一歩ずつ自らにできることに全力で臨んできた。それでも、ひとりでカバーできる範囲には限りがある。現場のことは佐藤正美強化部部長に任せつつ、チームが苦境に陥った今シーズンはアドバイスも送ってきた。

「攻撃的なサッカーを目指すなかで、シーズンを通じてバリエーションも増え、良い形や狙った形でのゴールも見られるようになり、攻撃面では良い数字も残せました。では、なぜこの順位だったのか。それはやはり失点の部分。攻撃的なサッカーをやるには、当然良い守備が必要で、そこが変わったからこそ、最後の6連勝につながったはずです。
シーズン初めの頃はスタイルを貫こうと、ちょっと綺麗なサッカーになりすぎてしまった部分もあったと思います。でも、独自のスタイルは、あくまでベースがあってこそ。1対1で負けないことや球際の強さなど、サッカーのベースがないと結果はついてきません。もともと口出しする意図はなかったのですが、シーズン終盤にはあえてそういう考えを頻繁に現場にも伝え、アイデアなども話させてもらいました。そこはもちろん強化部だけでなく、監督にも直接伝えたり、スタッフのミーティングで話したりさせてもらいました。選手にも個別に、練習が終わって引きあげてくるときや、駐車場でバッタリ会ったときなどに話をするようにはしていましたね。
結果が出ず、選手たちも当然悔しい想いをしていたはずで、ピッチで必死にプレーしていました。ただ、シンプルに考えれば、今のJ1では鹿島(アントラーズ)や柏(レイソル)らはやはりタフに戦いますし、走りますし、当然ながら気持ちが伝わる試合をしている。それが改めてサッカーのベースですし、そうでないと上には行けません。ザスパも最後の6試合はそういう戦う姿勢がより見えたと思いますし、まだまだミスもあって失点もしましたが、自分らのゴールに変換できた場面もありました。そうした点は来季に向けてひとつのテーマだと感じています」

一方で、個人としてチームの戦い方に気を配りながら、社長兼GMとしての多岐に渡る役割にも挑んできた。
「GMとは各クラブで役割が違い、ザスパでの僕の役割は、(代表取締役会長の)赤堀(洋)さんが今回(2026年1月31日付で)会長から離れるということで、チャレンジですが、赤堀さんにはなかったものをプラスするときではないかとも考えています。
それこそサッカーの現場のことは周囲よりわかっています。だからこそ、現場の気持ちを汲み取りながら会社の人間とも一緒に仕事をし、アカデミーの改革などにも少しずつ動き出しています。会議が入っていたり、パートナー(スポンサー)の方々へのご挨拶や来季の交渉、新規のパートナーの方々への相談などがあり、練習は1週間で1回ほどしか見られないときもあります。だからこそ、現場のことは(強化部部長の佐藤)正美さんに任せつつ、僕にできることをやっているという形です。
それこそ(ザスパ群馬レディース)ルミナスと連係を取ったり、(アマチュアチームの)チャレンジャーズの西村(孝允)監督とも話をし、フットボール面を含めてクラブ全体をしっかりと把握できるように努めています」
そうしたなかで今シーズンのホーム最終節では印象的な光景も広がっていた。6-2と松本山雅FCに大勝した一戦、試合後にはゴール裏でトップチーム、スタッフ、そしてアカデミー、ルミナス、チャレンジャーズの面々全員で肩を組み、ファン・サポーターと1年間の奮闘を称え合い、来シーズンへの想いをひとつにしたのだ。
「(J2を戦った)2024年から正直、今年の集客は減っています。やはりJ3に落ちた影響は大きく、改善すべき課題です。例えば招待で来ていただき、ザスパの魅力を知ってもらうのもひとつの手ですが、当然多くの方にチケットを購入していただくようにならないといけません。そのためにはホームタウン活動を通じ、露出を増やす必要があります。自分がイベントなどに出させていただくのも、少しでも集客につなげたい想いもあるからです。そういった積み重ねが大事だと今年1年間、走ってみてより感じました。

また最終戦で良かったのは、アカデミーの子たちを含め、みんなで挨拶ができたこと。今後はアカデミーの選手が、トップチームにしっかり上がってくる組織にしなくてはいけないですし、群馬県では前橋育英高校のように、高体連が充実していますが、僕らプロクラブは、ユースも拡充させなくてはいけない。その意味では最終戦のようにファン・サポーターの前で、トップチームの選手と一緒に、アカデミーの選手やレディースの選手たちが、オールザスパで同じ場所に立てたことは大きいと思うんです。トップチームの選手に憧れ、ああいった舞台に再び立ちたいと夢が広がりますからね。人によって感じ方は違ったかもしれませんが、僕は本当に素晴らしいことだったなと思っています」
アカデミーに関しては資金面のハードルはあるが、寮の整備や食事面のさらなるサポートも考えているという。新クラブハウスが完成したことで、アカデミー所属の選手たちがトップチームの先輩と身近に顔を合わせ、同じ場所で練習できる環境も追い風である。
もっとも、細貝社長は改めてザスパの知名度アップが大きな課題だとも話す。
「当然、“ザスパ群馬”という名前がより表に出ることも必要です。会社の人たちにも『残念ながら現実として、みんなが思っているほどザスパ群馬の知名度は高くない』と伝えています。例えば、僕らが5月末からベイシアグループの一員になり、メディアのニュース記事にしていただきましたが、僕が普段から連絡を取るような情報に詳しい知人は、10月くらいになってようやくその話題を知ったと言っていました。
その意味でも僕たちが思うほど“ザスパ群馬”という名前は、県外では知られていない。だからこそ、ザスパのことを知ってもらう活動はやはり大切です。個人的にもイベントに出させていただき、サッカー教室に出向き、行政主催のマラソン大会のゲストランナーを務めさせていただき、メディアの取材対応にも積極的に出させていただくなど、そういった活動も大事だと考えています。
一方で昨年と比較して今年はJ2からJ3に降格したことで、スポンサー収入は減るだろうと予想していました。でも、スポンサー収入やパートナーの方々は逆に増えてくれました。僕も挨拶に行かせていただき、知り合いの方や、選手の頃から応援してくださる方がパートナーになってくれたケースもあります。本当にありがたいですし、そのうえで、今後もよりザスパに興味を持っていただくことが大切だと思います」

その面でやはり強化していきたいのはホームタウン活動だという。
「先ほども話しましたが、ホームタウン活動がないと、やはり集客につながらないので、来年はより強化する予定です。チケット販売に関しても、ホームタウン活動の部署と連係し、約190万人いらっしゃる群馬県民の方々に向けて、どの世代をターゲットにすべきかなど、より詳細なデータを集め、計画を練って取り組んでいきたいです。そこはこれまで以上にいろいろと動いているところです。
また、キッズキャラバン(クラブの指導者がさまざまな場所でスポーツの楽しさなどを伝える活動)や、学校への訪問なども続けていきたいです。先日、僕の母校である前橋第七中学にもボールを寄贈させていただきましたが、そういった活動も増やしていきたいですね。当然、クラブマスコットであるザスパンダと一緒にいろいろな場所に行けることがベストです。ただ、活動を増やせば自ずと人員も必要になるので、来年はホームタウン活動の部署も拡大させていきたいと考えています。こうした活動はすぐに成果が出るわけではないですが、着実に進めていくべきです。ただ、例えばですが、前橋駅の周りに多くの旗を掲出してもらうなどしてザスパ色を強めるとしても、資金が必要です。他にもアイデアはたくさんありますが、実現するには運用費を確保しないといけない。そこは行政や県の協力も不可欠です。
また当然GCCザスパークなどの施設維持にもお金がかかります。本来、クラブハウスやトレーニング施設は収入を得られるものではないですが、このGCCザスパークは、タニタさんと連係した食堂やカフェがあり、人工芝のグラウンドも時間は限られますが、レンタルコートとしても活用しています。まだ課題は多いですが、僕も多くのことを勉強し、より良い循環を作っていきたいですね」

聞けばこの日も深夜から分刻みのスケジュールをこなしていたという。「慣れないことが多く、効率が悪いだけ」と苦笑いを浮かべるが、あくまで全力を尽くすのは裏方となる社長業であり、GM業だ。その傍らでクラブのためになるのであればと、身を粉にして働く。
「メディアの仕事なども、『なんで引き受けるのか』と聞かれることもありますが、当然それがザスパのためになると信じているからです。やはり先ほどお伝えしたように、少しでも時間があれば、ザスパの露出につながる仕事をしたい。ザスパのためにやれることを全力でやる。今はただそれだけですね」
ベイシアグループの一員になり、クラブの雰囲気もより良くなっているという。ただ、足りないこともまだ多い。来シーズン、悲願のJ2復帰を果たすために、そしてザスパがより愛されるクラブになるために。細貝社長は今後も全力で走り続ける。
文:本田健介
カテゴリ:INTERVIEW




