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2025.12.22

THESPA TIMES Vol.04 佐藤正美強化部部長インタビュー「僕らしつこいですよ」

J3で12勝10分16敗(56得点/59失点)の14位。2025年はシーズン当初に描いていた結果にはならなかった。それでも、新たなザスパ群馬のスタイルを作るために沖田優監督を招聘し、“超攻撃的サッカー”を志した尖った挑戦は、終盤の6連勝へとつながった。苦しいことも多かった1年で、指揮官とともに新たなクラブ作りを決してあきらめなかった佐藤正美強化部長は今、どんな想いを抱いているのだろうか。


1年でのJ2復帰を目指すはずが、一時は残留争いの足音が聞こえてくるまさかの苦戦。

鬱憤や不安を抱えたサポーターからは厳しい言葉も寄せられた。それでもザスパは、Jクラブで指揮を執るのが初挑戦となる沖田優監督を決して見限ることはなかった。

「心中する覚悟」

今だからこそ柔和な表情を浮かべるが、シーズン中は葛藤もあったはずだ。それでも沖田監督の後ろ盾となり続けたのが「結果と目指すスタイルのバランスにすごく苦労した1年」と振り返る、佐藤正美強化部長である。広く知られるように長年クラブに携わり、伝統を知る人物だ。その佐藤強化部長は信念を抱えていた。

「今のザスパのスタイルで挑むと決めたのは自分です。クラブの歴史や背景、地域柄、そういうものを踏まえ、超攻撃的なサッカーをやろうと沖田監督と契約しました」

そこにはJリーグ60クラブの中で、選ばれるクラブにならなければいけないという考えがあった。いろんな戦術がある中で、特長のある戦い方をしなくてはいけない。そうでなければ次のフェーズにはいけない。そういった考えがあったのだという。

「そのなかで、予想していた部分はもちろんありますし、こういうことも起こるのかと予想外の面も出たシーズンだったと思います。言ってしまえば、うまくいかないときに変えるのは簡単です。でも、目指すものをしっかりと作っていかなかったら、先はない。だから、僕の中では監督交代の選択肢はなかったですし、連敗しているときも考えなかったです」

新たなスタイルの構築。一朝一夕で辿り着けるものではない。生みの苦しみを経てこそ、輝く世界を見ることができるのだろう。そう信じたなかで、佐藤強化部長は沖田監督と密にコミュニケーションも図ってきた。

「沖田監督とは試合が終わるたびにいろんなことを話しましたね。こうしたほうがいいんじゃないかなど、さまざまな意見をかわしてきました。一番のポイントは、攻撃面ではスタッツを含めそれなりの成果を得られていましたが、守備のところで失点が減らず、同じような失点をしてしまったところ。そこをどう改善するか、ずっと会話してきましたし、何度もコミュニケーションを図ったからこそ、最後に6連勝という形に表われたのだと感じます。

それこそ夏の中断期間もインテンシティを重視してトライしましたが、中断明けのFC大阪戦には勝てましたが、そこから連敗を喫してしまった(1分8敗)。勝てずに自信を失っていた部分もあったと思います。でも(第33節の)奈良クラブ戦から最終節まで6連勝でできた。奈良戦でも決して方向性は変えず、守備のやり方を少し整理し、それがハマって勝てたことで、一気に自信を取り戻せました。大きなキッカケだったと思います」

自らが招聘した沖田監督と心中する覚悟で臨んできたからこそ、最終盤に得られた成果と言えるだろう。傍らで結果を出せずに苦しむ指揮官の姿に対し、背中を押す言葉をかけてきた。

「正直、監督が落ち込んでいた時期もありました。でも、できている部分はしっかりと伝え、監督が本当に何をやりたいか、表現したいのかは、問い続けました。その上で話したのは『僕らしつこいですよ』ということでした。僕たちはあきらめないから、今のサッカーを絶対に表現しましょうと。後ろからボールをつないでしっかりと作り、攻撃を構築するアプローチをしましょう、と話していましたね」

前述の佐藤強化部長の言葉どおり、チームは終盤に6連勝を達成し、2025年のフィナーレを迎えた。順位は14位と決して納得できるものではないが、来シーズンにつながるものだったと言えるだろう。

もっとも、クラブは今年Jリーグ加盟20周年を迎え、目指すのはその先を見据えた、ザスパと言えば誰もが思い浮かべるスタイルの構築である。その大きな目標に向けて、佐藤強化部長は強い想いを抱いている。

「私もこのクラブに在籍して長く、一番古いくらいの立場になっていますが、今、このサッカーを表現し続けなかったら、次は絶対にないと思っています。だから改めて進む方向を変えるつもりはないですし、目先の結果に捉われて、それを変えてしまったらクラブには何も残りません。強い土台を作るために、今が一番大事な時期だと考えてきました。

今までのザスパと言えば、スタイルが明確に設定されているわけでなく、その時々の監督のやり方を押し進めていくようなスタイルでした。ある意味、積み上げがなかなかうまく作れないところがありました。そんななか、昨年にはGCCザスパークという素晴らしい施設も完成し、そういった良い変化のタイミングで、自分たちのスタイルを作っていきたい、ザスパと言えば、というものをしっかりと示していかないと、次へはつながっていきません。

ですから、これまでのザスパの歴史とは、また違うチャレンジをしているわけです。もちろん結果が出なければ、今後、進む方向を変える必要が出てくるかもしれません。でも、それは今ではないと感じています」

そして沖田体制2年目の来シーズンへ向けて補強も大事になる。今シーズンを戦ったからこそ、新戦力を探す際の基準も明確になってきた。

「今年は期限付き移籍組を含めてすごく活躍してくれました。そうした既存の選手をどこまで残せるかがひとつのポイントです。そのうえで、どれくらい上積みできるか。今のサッカーはかなり尖っているので、順応するには多少時間が必要になってきます。もちろん、いわゆる、うまい選手も欲しいですが、攻撃的なマインドをどれぐらい持っているかも大切です。今シーズンはチームとして自信をなくしてしまう時期もありました。失点が重なったり、勝てないと、段々と気持ちも後ろ向きになってしまう。でも、そういうときでも、たとえ2点を取られても、3点を取ればいいと考えられる選手や、先制されても必ず逆転できると信じることのできるマインドを持った選手が必要です。

さらに攻撃的なサッカーに臨むにあたって、守備の選手は広大なスペースで一対一などを強いられるシーンが多く出てきます。そういうシチュエーションに対して、『俺の見せどころだ』『逆にチャンスだ』と力を発揮できる選手にも、来てもらいたいと思っています」

その上で重要視するのは、パーソナリティだと指摘する。

「サッカーはチームで活動するので、チームに何かを与えてくれる姿勢も重要視しています。それこそ今はプレーは映像などでいくらでも見ることができますし、うまい選手もいっぱいいます。ただ、それだけでなく、パーソナリティの部分も大切にしたいんです。

このクラブの歴史から考えても、かつての選手たちは働きながらサッカーに取り組んできましたし、当時のザスパは、そういうチームのパイオニアのような存在でした。あのとき、誰もが苦労していたと思いますが、クラブを良くするためにはどうするべきか、みんなで考え合っていたはずなんです。そういった歴史を大切にし、残していきたい。みんなで協力し、クラブのことを、チームのことを考えることができる集団にしていきたいですね。

今は環境がすごく良くなり、J1クラブに引けを取らないくらいの設備を持つことができ、ザスパに対する印象は良くなっているはずです。現在のサッカースタイルを貫くことで、ザスパに行けば成長できるというイメージも持ってもらえるかもしれません。そこを示すことが、60クラブの中で選ばれるクラブ、生き残っていくクラブ、上を目指していくクラブになるためには大事だと思っています。そういったものを含めて動き出したシーズンでしたが、そこはやはりプロですので結果は残さなくてはいけません。改めて、自分たちのスタイルの基準をしっかりと持って、トライすることが大事だと感じています」

そしてクラブの未来として、アカデミーの強化もテーマに掲げている。

「私はアカデミーにも携わってきましたが、ザスパは地域柄、苦労してきた部分があります。しかし、うちのアカデミーには可能性がない、厳しいとあきらめるのではなく、自分たちのやり方をレベルアップすることはできるはずなんです。いろいろな取り組みはしていますし、結果も発信もしっかりと意識していきたい。そして若い力を育てるのはもちろんですけど、有能な人材に集まってもらうトライは、より細かく設定してやるべきだと思っています。先ほども話したように施設が新しくなり、トップチームとアカデミーが同じ場所で練習ができるようになりました。そうしたメリットもぜひ活かしていきたいですね」

クラブの歴史を知る佐藤強化部長が示す未来は明るい。しかし大きな志を持つゆえ、その航海には今後も壁が立ちはだかるかもしれない。それでも信念が詰まった挑戦が輝かしい成果として現れるときを、ぜひとも信じたい。

文:本田健介

カテゴリ:INTERVIEW