THESPA TIMES Vol.02キャプテン 米原秀亮「こんなチームはなかなかない」

新加入で、新キャプテン。笑顔で語る米原秀亮の顔には、楽しさと充実感が漂っていた。
「こんなチームはなかなかない」
今シーズン、沖田優監督の下で取り組んでいる“超攻撃的サッカー”。
その手応えについて、語ってもらった。
「めちゃくちゃ楽しそうなサッカーだなって。新しいチャレンジができると思って決めました」
決断の背景を語るのは、今季、松本山雅FCからザスパ群馬へ加入したMF米原秀亮だ。主にボランチを務める26歳の技術力に長けた男は、沖田監督に“新生ザスパ”のキャプテンに指名された。重責を担うのは小学生以来だという。
ロアッソ熊本のアカデミーで育ち、早くから才能を評価された。2015年には、天皇杯でクラブ史上初となるユース所属選手としてトップ出場を果たし、プロとしての歩みをスタート。その後、移籍した松本では5年半(2022年途中からはヴァンフォーレ甲府に期限付き移籍)を過ごして、立ち位置を確立した。
その状況で、なぜ今オフに移籍を選択したのか。しかも群馬は、昨季の降格を受け、メンバーを大きく入れ替えて、再出発を図るなど未知数な面もあったはずだ。それでも新たに就任した沖田監督の下、「攻撃的で魅力的なサッカーを見せる」という群馬のプロジェクトに大きな魅力を感じたのだという。
「松本で約6年プレーさせてもらって、その都度、メンバーは変わりましたが、フロントの方や、マネージャーの方たちとは長年一緒に働かせていただきました。さまざまな経験をさせてもらい、本当に感謝しています。ただ、その一方で、自分の知らない環境で新たなチャレンジをしてみたいという想いも芽生えていました。ちょうど、そのタイミングで声を掛けていただいたという形です。年齢(26歳)というよりは、やっぱり環境を変えて、もう一度勝負してみたいという気持ちが強かったです。
もともと僕は、移籍に関してはネガティブな印象を持っていました。だから熊本から松本に行く際には不安もありました。でも、環境を変えることによって新しい出会いや新しい刺激を得られます。松本時代には甲府にも半年行かせていただきましたが、移籍を通して手にできるものが多いと気づくことができたんです。その背景があったからこそ、今回も決断できました。
それに自分もアカデミー時代に、ボールを大事にして前進するサッカーを教わりました。だから、オキさん(沖田監督)が理想とするサッカーに惹かれた面もかなり大きかったですね。クラブとして、これまでとはまったく異なるサッカーを目指すなかで、僕も一緒にチャレンジしたかった。実を言うと、年末までは新シーズンをどうすべきか決めていなくて、そんな時にザスパからオファーをいただいたんです。(強化部長の佐藤)正美さん、オキさんと3人で話をし、やりたいサッカーを伝えてもらったときに『めちゃくちゃ面白そう』だなって。だから不安よりも、自分が成長できそうだというポジティブな想いが強かったです」
もっとも、高いレベルの技術力や判断力を求められる、“誰もが楽しめて、誇りを持てる魅力的な攻撃サッカー”の構築はやはり一筋縄ではいかない。
ここまでの群馬はJ3の22試合を戦って、5勝9分8敗の16位(30得点/34失点)。米原も負傷によって途中離脱するなど12試合1得点と悔しい成績となっている。
ただ、J2復帰は言わずもがなだが、今のチームは難易度の高いサッカーを、そしてさらなる高みを目指しているからこそ、生みの苦しみとも呼べそうだ。目先の結果を優先すれば、手堅いサッカーをすべきだったのかもしれないが、それでもクラブに関わる全員にブレはなく、米原もチームにはポジティブな空気が溢れていると語る。
「こんなに戦術を変えない、やり方を貫く監督は、僕も初めてかもしれません。その分、オキさんの要求は高いです。でも選手たちは、だからこそ『やらなくちゃ』っていう想いになっていますし、シーズン序盤戦などは、なかなか勝てない時期もありましたが、監督は曲げずに、僕たちの成長とチームの成長を目指してやってくれている。選手はそこをよく理解しています。だからこそ、オキさんの想いに応えようという意思を持っています。
それにチームの雰囲気は悪くないと言いますか、オキさんが示す戦術に対してネガティブな選手はひとりもいません。むしろ自分たちが成長して、『監督が求めるレベルにまで行こうぜ』と誰もが考えているはずです。
このまま全員が成長してレベルを高めていけたら、勝利が自ずとついてくるはずです。シーズン当初と比べれば、技術力が上がるなど、大きく異なるチームになっていると感じますから。だから取り組んでいても楽しいですし、それが本当に結果につながってくれば、より楽しくなるのだと思います」
コンサドーレ札幌などで長くコーチを務め、今季からザスパを率いる沖田監督は、始動から技術力にこだわる指導をメインに行なってきた。
「立ち上げから技術的な練習を軸に、パスを出す相手の状況まで細かくこだわっています。例えば、パスが通ったシーンでも、オキさんは『相手がこっちから取りに来ているから、左足に出したら奪われる可能性が高い。そこまで意識しないと安定してボールを前進できない』と、パス一本の質、どこに出すべきかなど、本当に細かいところまで指導してくれています。そこはやっていてすごく面白いですね。
僕自身、中学校時代からそういうこだわりのあるサッカーを教えてもらってきたタイプなので、やっぱりそこって大事だよねと、今、再確認しているところですが、一方でこういうサッカーに初めて挑戦している選手は自分自身の成長を実感しているようです。
もちろん最初の頃は『ここまでつなぐのか』と驚いた部分も正直ありました。それでも監督は低い位置から、それこそGKからつなごうと言い続けてくれているので、選手はオキさんが求めるレベルを目指し続けています。『いや無理でしょ』っていう声は聞こえないですね」
一方で、リーグはすでに前半戦を折り返しているが、米原はキャプテンとして、チームの課題を改めて指摘する。指揮官が“1失点しても複数得点で勝つ”というテーマを設定するなか、群馬は22試合を終えてゴール数はリーグ7位の「30」、失点数はリーグワースト4位の「34」だ。
「やっぱり失点に目がいくと思います。どうしても失点が続くゲームが多かったですから。でも、最近は徐々に減ってきました。クロス対応や、ブロックを作っての守り方などの整理も進んでいます。そのうえで監督もよく言っていますが、僕らが意識しているのは2点目を取る重要性。1点は取れるけど、2点目が続かない、良いゲーム運びをしているのに1点が取れないなど、そういうゲームが続いている印象が強いです。その面ではオキさんも、攻撃的にいくからこそ、1失点しても自分たちが2点、3点取っていれば勝てると伝えてくれているので、後半戦はそこをより意識していきたいです。
あとはゴール前の崩し方。開幕した頃に比べると、ゴールに近いエリアでプレーする回数は増えていますし、精度も高まっています」
3-4-2-1と4-3-3を併用する今季、米原は「どのポジションも重要」と語りつつ、攻撃面のポイントに関してはウイングバックやウイングの働きも挙げる。
「(大切なのは)ウイングの突破力じゃないですかね。そこで相手を上回ることができれば、相手のラインも下げられる。そこで前進できれば一番良いですよね」
そのウイングバックには、夏の移籍マーケットでともに期限付き移籍として、活きの良い小竹知恩(清水エスパルス)、モハマド ファルザン佐名(柏レイソル)を補強した。
「ふたりとも良い選手ですよ。推進力があって、突破していける。個人的にもめちゃめちゃ期待しています」
そして目指すJ2復帰へ、決意を新たにする。
「もちろん上を、昇格を目指してやっていきたいです。ただ、1試合1試合が大事なのは変わりません。ここからどれだけ勝点を落とさずに進めるか。引き分けを勝ちにするなど、一つひとつの積み重ねが最後に良い結果につながります。だからこそ目の前の1試合に懸けたい。
個人的な目標は、一日でも早くピッチに戻ること。全試合に出るつもりだったので、負傷してみんなに迷惑をかけてしまっていて申し訳ないです。あとどれくらいで復帰できるのか、まだ定かではありませんが、僕が戻る頃にはチームも上位にいて、ラストスパートに貢献できればベストですね。外から見ている印象と異なる部分もあるでしょうから、チームに何か言うことも難しい部分もありますが、可能な限り支えていきたいです。
改めてJ3のレベルが上がっていることは実感しています。名の知れた選手も、さまざまな特色を持ったチームも増えていますから。でも、今のザスパのようにこれだけ戦い方を貫いて昇格したら、きっとJ2に上がったあとも確固たるサッカーを見せられると思うんです。こんなチームってなかなかないですよね。だからこそチャレンジし続けたい。本当に自分たち次第でいかようにも進化できるスタイルだからこそ、前向きに信じてやり続けるだけです」
沖田監督から「一番ボールに触ってほしい」と求められるなかで、ボランチやアンカーの位置で相手の動きを見ながら柔軟にパスを展開する、そんなキャプテンの姿を待ち望みながら、米原は今、自分にできることに取り組んでいる。
そんな彼が回答に悩んだ質問があった。
「理想のキャプテン像? それは一番難しいな……。でも僕はいろんな選手と会話できるほうですが、強く発信するタイプではないので、そこはもっとやんないといけないって思いながらも、プレーで引っ張っていきたい。
松本ではムラさん(GK村山智彦/現・房総ローヴァーズ木更津FC)がチームのことを考えて発信し、プレーで仲間たちに示している選手を見てきました。それこそムラさんは練習前の準備もそうですし、練習後のケアや筋トレも誰よりもやっていた。そういうところは改めて見習いたいです。それがキャプテン像なのか分からない部分もありますが、自分のそうした行動がチームのためになればと考えています」
ここ数年、松本で過ごしていたこともあり、群馬の夏は「暑いっすね。熊本出身なので久々な感じがしています」と笑う。
もっともそんな暑さに負けない熱を持ったチャレンジに、米原は日々ワクワクしている。群馬の新キャプテンとチームのストーリーはまだ始まったばかり。ここからさらなる彩りが加わっていくに違いない。
文●本田健介
カテゴリ:PLAYERS INTERVIEW