FAN ZONE

ファンゾーン

TLC

2025.07.28

THESPA TIMES Vol.01監督 沖田優 「責任はすべて自分にある」


「責任はすべて自分にある」
それでもクラブ全員で突き進んでいる攻撃的なサッカーへの揺るぎない進化。
反撃の後半戦へ沖田優監督が掲げるポイントを聞く


悔しさ、希望、様々な想いが入り混じった新たな一歩と言えるだろう。

昨季、J3降格という忘れられない経験をしたザスパ群馬が選んだのが“誰もが楽しめる、誇りを持てる魅力的な攻撃サッカー”へのスタイルの転換であった。

1年での昇格のために定石と言えるのは手堅く勝点を積み重ねるサッカーを目指すことだったのかもしれない。しかし、ザスパ群馬が選択したのは難易度の高い道。1年でのJ2復帰を目指すのは当たり前ながら、目先の結果に固執せずに“その先”を見据える歩みであった。

もっとも選手もスタッフ陣も大きく入れ替わった今季、ここまでの成績は22試合を終えて5勝9分8敗の勝点24で16位(30得点・34失点)。今季就任した沖田優監督も、まず口にするのは「不甲斐なさ」だった。開幕時に掲げていたのは勝点70を越えてのJ3優勝&J2昇格であった。

「まず目標に対して、勝ち数、勝ち点ともに到底足りる数字ではなく、ファン・サポーターの方々、スポンサーの方々、支えてくださる皆さんに、本当に申し訳ないと感じています。その責任はすべて自分にあります」

ただし、苦境において何より大きいのは赤堀洋会長、細貝萌社長兼GM、佐藤正美強化部長らフロント陣、沖田監督、そしてスタッフ、選手たち、クラブに携わる全員が同じ方向を向けていることである。成績が残せないと疑心暗鬼になりがちで、指針がブレることは往々にしてあるが、今の群馬の姿はサッカー界でも実に珍しい。指揮官も強調した。

「攻撃的なスタイルを貫き、進化することは簡単ではありません。ですが、選手、スタッフら現場はもちろんですが、強化部やフロントの方々も本当にブレることなく、『この方向で、この攻撃マインドで、続けていきましょう』と話してくれています。改めて僕自身、勝点や勝利を思うように提供できていない事実に関しては申し訳ない想いです。一方で、クラブの進むべき道に関しては誰もが同じ方向を向き、進化できていると自信を持って言えます。

結果を思うように残せずにいると、ブレやすくなり、少し方向性を変えていきましょうという話になりがちですが、その点に関しては、同じ考えを貫いていただいている強化部、フロントの方には本当に感謝しています。それがなければ、攻撃のスタイル、マインドを持ったクラブを創っていこうという挑戦は難しいものになっていたはずです。

簡単ではない道を、このクラブは歩んでいる。だからこそ、目標は決して諦めませんし、もっと数字上の結果を出し、後半戦は、われわれが目指す本当の姿を、ファン・サポーターの方々に見て喜んでもらえたら良いと選手たちと日々、全力で取り組んでいます」

J3降格を喫して迎えた今季に関しては、17人の選手がチームを離れ、13人の新戦力を迎えるなど、まさに“再スタート”を図った。それでも強化部が示した方向性に合致し、招聘された沖田監督は、始動から選手たちに一本のパス、ひとつのトラップの重要性を説き、技術レベルの向上、常に前を向き続ける意識付けを徹底してきた。

試合では自陣の低い位置で勇気を持ってパスをつなぎ、奪われてショートカウンターを浴びる場面も見られた。それでも、悔しさとともに蒔いてきた種が、徐々に成長しているのも事実である。何より“尖った”挑戦に選手たちもやりがいを感じていると、キャプテンの米原秀亮も強調する。指揮官も振り返った。

「立ち上げの日から最初の1、2か月はもうそれしかないと言うぐらい、パスやトラップの意識の部分を、失敗してもいいからと伝えてきました。どのエリアでも、誰もが実践できるように目指してきました。その攻撃に対する細部を提示された時の選手たちの成長スピードは、自分が想像していた以上に早く、凄いことだと思っています。

それこそ、本当の意味での効果的なロングボールの使い方は、しっかりとしたパスのベースがなくては学べません。最初にロングボールありきでやってしまうと、あとからボールをつなごうとしても、逆に時間が掛かってしまいます。だからこそ、今は難しいほうから身につけられるようにアプローチをしており、選手たちは本当に怖がらずに勇気を持ってピッチで戦ってくれた前半戦だったと感じています。そこは彼らが誇らしいです。

考え方のベースとして、相手がプレッシャーをかけに来るということは、相手の守備がゴールから遠ざかり、出てきてくれているということです。だからこそ、そこを剥がし、ひっくり返すことができれば、こちらのチャンスになる。そう考えられるように立ち上げからずっと進めてきました。それは口でいうほど簡単なことではありません。でも、選手が本当によくチャレンジしてくれています」

その考え方のベースには、長年、コンサドーレ札幌でコーチとして支えた“ミシャさん”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督や、S級ライセンス(現Proライセンス)取得時に研修を行なわせてもらうなど、昔から理想としてきた大木武監督の影響を色濃く受けているという。ふたりは、Jリーグ切っての魅力的なチームを作り出したことでも有名だ。

「まさにそのお二人から学ばせていただき、ミシャさんの下では、信念を持ち、攻撃面でアプローチをするからこそ選手の成長スピードが上がると、実体験しました。攻撃している時間、ボールを持っている間は失点しませんし、ゴールに迫る回数が多ければ多いほど、見ていてもやっていても楽しい。選手も楽しみながら練習に取り組めています。いかに手堅く守れるかという練習を日々やっていたら、選手は楽しんで臨めないかなとも考えています。そういう意味では、やっているほうも見てくださる方も、楽しいサッカーで、なおかつ本当に強いチームになるのが、1番最高な形です」

そのために後半戦でポイントにしていることがある。

「実際に攻撃の時間をより増やすためにも、攻守ともに強度、運動量を上げる。シーズン前半戦途中からちょっとずつ守備力も選手に求めながら強化し、失点も少しずつ減ってきています。後半戦はより磨き、ゴール数や勝利数を上げたいです」

夏の移籍市場では山中惇希、田頭亮太が新たなチャレンジを選択した一方で、3-4-2-1、4-3-3を採用するなかで、特殊性の強いウイングバックやウイングを務められる小竹知恩、モハマド ファルザン佐名、CFの中島大嘉といった若く伸び盛りなタレントを迎え入れた。

「J3で異質なサッカーをやっているなかで、(山中)惇希みたいな移籍が起こるんじゃないかという予測を立てたなか、強化部が大事な選手を取られる前に素早い動きをしてくれたことはすごく助かりました。選手を引き抜かれてから慌てて動いても、時間がかかります。そこは自分たちのスタイルを共有し、欲するタレントを皆で理解できていたからこそだとも思います」

そして後半戦で目指すのは今季まだ達成できていない連勝と、3月から挙げられていないホームでの勝利である。

「連勝をとにかく達成したいですし、その可能性は高まってきていると感じます。そしてホームでは引き分けや負けが続いている。そこは本当に申し訳ないところで、やっぱりもうひとつ先に点を取っておけるような、(第19節の)松本山雅FC戦で示せたような流れを多く作りたいです。先に2点、3点を取っておけば、トラブルで1失点しても、勝って終わることができる。

だから(後半アディショナルタイムに追いつかれて1-1だった第21節の)栃木シティ戦もあと一歩でしたが、2点目を先に取れればという想いが強いです。守り切れていたら良かったというよりも、僕らは複数得点を奪うことを目指したいです」

改めて沖田監督が見据えるのはチーム強化であり、長い目で見るクラブとしての強化でもある。そしてそこには、支えてくれる人たちへの“お願い”も含まれる。

「今年掲げた目標に対して全力で取り組んでいます。結果を残さなくてはいけないと強く考えています。ただ、今年の目標だけではなく、より長いスパンでも、進むべき道を示せているのが、今のクラブの強さだと感じています。ファン・サポーターの方々にも苦しい想いをさせてしまっていますが、可能であれば、クラブが掲げるビジョンのもと共に闘い、選手が勇気を持ってプレーできるように応援していただけると幸いです。僕らも日々、皆さんが観ていて面白いと思ってもらえるようなサッカーで勝つことを体現できるように全力で挑みます。

選手も強化部も、ファン・サポーターの方々も同じ方向を向いていることが最高の形だと思います。そして、そうした試合や取り組みを目にして、アカデミーの子たちが、このクラブすべてが最高だと思えたら、ザスパに入りたいという子どもたちが増えるはずです。ザスパでプロになり、このクラブを支えたいという人が増えてくれれば、本当に良いサイクルが生まれるはずです。そこを目指して頑張っていければとも考えています」

酷暑が続くなか、チームは「今こそ強度や運動量を上げるべく練習しています。暑くても下げない。他のチームが下がる時期にこそ、強度を維持するべきだと取り組んでいます」と沖田監督は話す。そのためにもシーズン当初から「この時期は回復が遅くなると分かっていたからこそ、夏場でもしっかり練習ができるよう、コンディショニングコーチとも前もって予測し、栄養や体調、コンディションの管理にアプローチしてきました」とも説明する。

ザスパークという素晴らしいクラブハウス、練習場が完成し、レジェンドの細貝が社長兼GMに就任するなど環境が大きく変わるなかで、クラブは大きな転換期を迎えているのだろう。

すべてはクラブの未来のために。今は生みの苦しみだと信じ、すべての人が手を取り合って進んだ先には、見たことのない光があるのではないか。信じることには苦しさも伴う。それでも、Jリーグでも稀有なロマンあるチャレンジに、何度も壁に阻まれながらも沖田監督や選手たちは覚悟を決めて挑んでいる。

「意志あるところに道は拓ける」

ブレないその道には、“熱”がある。

文:本田健介


NEXT キャプテン米原秀亮INTERVIEW

※近日公開

カテゴリ:監督インタビュー