THESPA TIMES Vol.03 沖田優 監督インタビュー「悩み、もがき、辿り着いた“ありがたさ”」

監督1年目。まさに紆余曲折で、ジェットコースターのような日々を過ごしてきた。だが、どんなに辛くても、結果が出なくても、己が信じた道から逸れることは決してなかった。その背景には支えてくれるクラブに関わるすべての人たちの力があった。そしてシーズン最終盤につながった破竹の6連勝。指揮官はこの1年をどう捉えたのだろうか。
貫く、信じる。
言葉ほど簡単なものではない。
チームの指針を示す指揮官は信念を貫く必要がある。ただ一方で、成績の全責任を背負う立場として連敗が続けば心身の負荷は相当なものだ。しかも監督初挑戦となればなおさらだろう。
長年、北海道コンサドーレ札幌などでコーチを務め、今シーズン、ザスパ群馬にやってきた沖田優は、監督1年目、他では味わえないような濃厚すぎる日々を過ごした。
2024年に残念ながらJ3降格を味わったクラブは、今年、多くの選手を入れ替えながら再出発したが、沖田監督が目指したのは、自分たちも、そして観ている人たちも楽しめるような技術力を活かした“超・攻撃サッカー”だった。
昇格のためには手堅く戦い、勝点を積み重ねる戦い方が定石と言える。現代サッカーではインテンシティが合言葉になり、テクニカルなチームを飲み込む傾向も強い。沖田監督とザスパが掲げた新たな挑戦はワクワク感とともに、壮大な道のりでもあった。
大きな夢にはそれなりの代償も付き物だ。輝かしい成果はそう簡単に手に入れられるものではない。
今シーズンのザスパも結果的には昇格争いに絡めず、逆に一時期は降格の危機にも瀕するなど14位(12勝10分16敗/56得点・59失点)でシーズンを終えた。特に夏場に苦戦を強いられ、8月末からは9戦未勝利(1分8敗)も経験した。

「かなり苦しい時期だった」
沖田監督も振り返る。
「もちろん自分の責任を感じていました。ただ、それは毎試合、どんなときも変わりません。何かあれば、責任を取って辞めることは監督のさがです。ですから当然、連敗したときは苦しかったですが、そのときだけでなく、監督に就任した最初のときからずっと何も変わらずに強い責任とともに臨んできました」
なかなか勝てずに疑心暗鬼になり、目先の勝利のためにシンプルな戦い方にシフトする。よく聞く話である。沖田監督だって心が折れそうになったときもあったに違いない。しかし、ザスパというクラブや周囲の人々が支えになってくれた。
「今、話したように、プレッシャーや圧は毎試合感じていましたし、勝てずに正直しんどい時期は本当にありました。成績に関しては申し訳なく思っています。ただ、表現が難しいのですが、この1年、本当に、なんだろう……楽しかったという言葉が出てくるんです。このサッカーに挑めるのが楽しかった。みんなと過ごせるのが楽しかった。それはクラブに関わるすべての人たち、そして選手がいてくれたからこそです。だからトータルすれば、最終的に行き着くのは、“サッカーを楽しめた”という想い。そこですね。悩み、考え込み、もがき、でも、毎回、ありがたいという言葉に辿り着きました」
苦しかったとき、忘れられない光景にも出会った。
8戦未勝利で迎えた10月18日のホームでの福島ユナイテッドFC戦。2点を先行されたチームは、80分の藤村怜のゴールで1点を返すも、逆転するまでには至らなかった。試合後のゴール裏、不安、憤りをため込んだサポーターと沖田監督が意見をかわす場面が訪れた。そこで指揮官はある“確信”を持った。

「あのとき、サポーターの方々からは『サッカーの内容を変えないのか?』『これからどういうサッカーをしていくのかを説明してくれ』と求められたんです。だからみなさんの前に行かせていただき、『何も変えるつもりはありません。選手を信じ続けます。自分は必ずできると思っています』と答えさせていただいた。するとサポーターの方々は『それを示してくれさえしたら、俺らは付いていくから』と言ってくれたんです。
客観的に考えれば、『なんでこの状況でボールをつなごうとしているんだ。蹴って下がって守備をしろ』というふうに考えていた人もいるかもしれません。でも、自分が変えないという姿勢を示させてもらうと、“だったら、一緒に頑張っていこう”と、お互いに意思確認ができた。
そこをキッカケに選手たちも怖さが一切なくなったと思うんです。“よし、もっと自信を持ってやろう”と。やっぱり勝てないと、どうしても疑心暗鬼になってしまう。周りからの意見も耳に入ってしまい、悩んでしまう。そうやって生まれた恐怖が、サポーターの皆さんの言葉によって、取り払われたと、僕は感じたんです。
自分はずっと選手たちに言ってもきました。『結果がついてきていないけど、日々成長しているのは間違いなく、体力や強度のベースも上がっている。同時に守備も整備している。だから勝てなくて、怖がってプレーしているところもあると思うが、もうかなり良いレベルまで到達している。だから自信を持って勇気を持ってプレーし、この山を乗り越えたら物凄く成長できる。だからやり方は変えないし、積み上げてきたものを出すだけだ』と。
あの福島戦以降、選手はまさにそれを成し遂げてくれた。選手が怖さを乗り越えたことはすごいですし、乗り越えさえすれば、やっぱり勝てる力は備わっていた。それを最後に証明できた6連勝でした。改めて僕も、(コーチ時代などに)何回かJ1からJ2に落ち、そのときにやる作業と言えば、守備を整備し、手堅いゲーム運びをし、一発を狙い、勝点を稼ぐ。そして成績が危なくなったら監督を代え、新しい監督には守備の整備をお願いし、危機を脱するというものだと思うんです。
でもこのクラブは、強化部も信じ続けてくれましたし、選手もブレずによく成長し、乗り越えてくれました。苦しいときにそれを捨てずにやり続けたからこそ、上位争いもできる力を最後につけられたと感じています。正直、リスクはありましたよ。でも、サポーターの方と話して、互いにさらに覚悟を決めることができた。あの福島戦のあとに、僕はこのクラブの未来は明るいと確信できたんです。きっと分岐点になると」

実際にチームは、続く奈良クラブ戦で10試合ぶり、約2か月ぶりの勝利を掴むと破竹の勢いで6連勝を達成し、2025シーズンのフィナーレを迎えた。だからこそ来シーズンへの期待値も上がっている。真の実力とは目先の取り組みだけでは身につかない。コツコツ重ねるからこそ、ブレない力になるのだろう。現に終盤戦のザスパは、美しい崩しだけではなく、球際の攻防や走力でも確実にパワーアップしていた。
「切り替えや強度、体力の強化もチームの立ち上げからずっと積み上げてきました。コンディショニングコーチとも相談し、そういう要素は年間を通して徐々に上がるものだから、練習の中で組み合わせながらやってきました。だからこそ、終盤戦では、強度が高い守備を続けられるようになった。
シーズン序盤には後半にバテテしまい、失点が増える時期もありました。あのときはまだ体力のベースが到達していなかった。さらに攻撃の時間を長くできれば、体力の消耗も抑えられますが、まだ攻撃力も足りていなかった。だから、正直な話をすると、シーズンが進むにつれて交代の仕方もだいぶ変わったんですよ。当初は体力面を考慮して入れ替えをする必要があった。でも終盤戦は展開や戦術を考えて交代策を練ることができた。そこも大きく変わった部分だと思います」

そのベースを活かして、今度こそJ2昇格を求められるのが来シーズンである。シーズン移行によって、半年間の特別シーズン(明治安田J2・J3百年構想リーグ)を経て、2026年の夏から真の勝負が始まる。
「(今季の)最後の6試合もいろんなタイプのチームと対戦しながら、どんなタイプのチームであっても勝ちにもっていくことができた。だから自分たちのやるべきことは変わらないですが、単純計算ではあと13チーム、またタイプの異なるチームと対戦し、上回っていく必要があります。長いシーズン、チームは生き物ですから、さまざまな時期もあるはずです。そうした壁を乗り越えながら進んでいきたい。
でもやっぱりベースや方向性は変わらないので楽しみです。あとはどれだけ上積みできるか。例えば最終節の高知ユナイテッドSC戦は前半のうちにこじ開けられたのが成長です。SC相模原戦は、後半までこじ開けるのに時間がかかったし、その前に失点してきたのが以前の課題。
来年はそういうゲームでも、早い時間で2点以上を取れるような強さを手にしたいですし、無失点で試合を終えたい。そういう上積みをもっとしていきたい」
“沖田ザスパ”の進化は続いていく。信じる者の前に道は拓ける。今シーズン、それを証明したチームは、次は特大の歓喜を手にするために、己を磨いていく。
文:本田健介
カテゴリ:INTERVIEW




